海外工芸情報

Isabelle Emmerique (イザベル・エメリック)の漆芸

パリ国立高等工芸学校(ENSAd)教授のイザベラ・エメリックさんは“フランス版人間国宝”の漆芸作家です。
フランスの“人間国宝”と言うのは、日本の「重要無形文化財保持者」制度に倣い、優秀な工芸技能者を顕彰し、技術の継承を目的とする“Maître d’art”(メートル・ダール=技芸の達人)制度のことで、日本の重要無形文化財保持者が俗に“人間国宝”と呼ばれていることから、Treseur national vivant (生きている国宝)と呼ばれることもあるようです。実際に日本の“人間国宝”のことはそう呼んでいます。まったく「重要無形文化財保持者」など、どう仏訳していいものか見当がつきません。強いてやってみればDétenteur de technique pour bien culturel immaterial とでも 言うことになるかも知れませんが、フランス人には“何だ、こりゃ!? ”でしょう。その点“生きている国宝”のほうがスッキリしていています。もちろん国宝は技術であり、人間が国宝でないことは、日本と変わりありません。
現在、85人が指定されていますが、技芸の範囲は極めて広く、モロッコ革の靴の製造とか、オルガンの製造とか、家具修理のようなものにまで及んでいますが、日本の「工芸」に相当すると考えられる arts decoratifs(装飾美術)分野の“国宝さん” は18人で、麦わら細工とかガラス製品の上絵付けなども含まれています。エメリックさんは、どちらかと言うと“純粋美術”(beau-arts, 英語ならばfine art)に近く、日本の漆芸と違うのは、立体造形はなく、平面・曲面上に図案を描くことが全てだということです。
エメリックさんの作品は《élégante=エレガンス》と言う言葉がピッタリだと思います。バランスの取れた多彩な色感とパターンのデザインを施します。温厚な人柄ですが、興味を引いたものには一直線に遠慮なしに突き進む情熱を持っているようで、2009年4月に、ENSAdの学生を引き連れて研修に来日した際には、京都の錦小路の刃物店で制作に使うというcouteau(包丁)を熱心に選び、見学に訪れた工芸京都同人・鈴木雅也のアトリエでは、最前列中央に陣取って食い入るように鈴木氏の作業を見つめていました。図案を施す筆にも興味を示し、鈴木氏に筆商を紹介してもらい、学生ともども仕入れて帰国しました。
履歴などの詳しいことは、インターネットの“Maître d'art”のホームページで分りますが、当然フランス語なのが難です。しかし、日本語に訳しにくい表現もあるようで、ここで下手な翻訳を載せるのは“遠慮”しておきます。

以下の画像のうち、初めの8枚は2008年にレンヌ市で開いた個展のカタログから取ったものです。続く7枚は最近メールで送られてきた、最近作です。個々の作品には、いずれもタイトルは付されいませんが。個展は「Les Portes du Mond」(世界の門)と言うテーマの連作です。

I sabella Emmerique is an “urushi” (lacquer) artist of France. She is a professor of National Decorative Arts School and is designated as “ Maître d'Arts”(Master of Art and Craft)by French Government. That system is founded following Japanese “The living national treasure” (重要無形文化財保持者)。 She is good at express fine and strong impressionable design mainly on the flat board.
Following pictures are her work from 2008 trough these days.

“ちょっと見”フランスの陶芸

フランスの工芸美術は、日本に比べて“ぶっちゃけ”見劣りがします。木工・金工・染織は“作家”と呼ばれる人の存在もハッキリしません。
そんな状況下で、陶芸と漆はかなり手がける人が多く、発表も相当頻繁に、行われているようです。
しかし残念ながら、2006年から2008年にかけて見た作品はいずれも荒っぽい感じが強く、技術が造形に追いついていません。日本の“ある種”の陶芸が“精神性”から精巧さを排していると誤解して、技術の洗練に意を用いないのではないかと思われるものが目につきました。
また飲食器は、日本では最重要視される“用と美”のバランスがないがしろにされている感じです。これは使う人が気に入れば、他人が文句をつける筋合いではありませんが、それでもどうかと思わされます。
以下、写真でいくつか実例をお目にかけましょう。
はじめの2枚は「工芸京都」がパリ展を開いた《エスパ―ス・ベルタン・ポワレ》で2007年7月に開かれていた若い女性作家の個展です。
次の6枚は、6区の名刹サン・シュルピス教会の前庭で、これも2007年7月に開かれた、野外陶器見本市で展示されたものです。作家がトラックで持ち込みます。有名作家も参加していたそうですが、際立って優れたものは、見当たりませんでした。
最後の5枚は、Elsa Sahal(エルサ・サール)という、ストラスブールの美術教師の作品集からの転載です。この人は「パリ展」を見て、今井政之の作品に感激して、是非京都で勉強したいと留学を思い立ち、今井に弟子入りを希望し、今井も快諾しましたが、2011年になっても来日していません。政府の給費留学生に採用されなかったためと思われます(ちなみに、京都への留学派遣は、文学と芸能が多いようです)。本当に京都に来て勉強すれば、フランスの陶芸のレベルも上がると思います。

(塚本 樹)